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アカデミー賞候補になった和風テイストの短編アニメ

アカデミー賞候補になった和風テイストの短編アニメ

アカデミー賞候補になった和風テイストの短編アニメ

■短編アニメ『九十九』

第86回アカデミー賞では、宮崎駿監督の『風立ちぬ』が長編アニメ賞部門、森田修平監督の『九十九』が短編アニメ賞部門にノミネートされました。残念ながら、両作品とも受賞は逃しましたが、日本アニメが2本もノミネートされたのは画期的なことです。とくに、世界的に認知度が高く、ファンも多い宮崎駿監督と並び、若干35歳の森田修平監督の作品が大きな評価を得たことは注目に値します。

この作品は、2013年7月に公開されたオムニバス映画『SHORT PEACE』の一編として制作されました。とてもユニークな内容です。本来、モノには生命がないはずですが、使い込まれていくと、そこにいつしか精霊が宿り、妖怪となって人間をたぶらかす・・・、といったモティーフの下で物語が展開されます。

15秒ほどのCM映像を見ていただきましょう。http://www.youtube.com/watch?v=PJfhKpayMog

森田監督はインタビューに答えて、次のように言っています(『intoxicate』vol.104)。

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アニメは情報を削除していく文化で、浮世絵にも通じるかもしれないですが、そういうのが日本は得意だと思います。逆にアメリカの映画は、情報を足すというか過剰にしていく。宮崎さんのアニメなどは、本当にちょっとしたことでも、奥が深いんですよね。さらに世界観も作れて、次は面白いストーリーとか・・・、いくらでも広がりが持てる」

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森田監督はこうもいっています(http://animeanime.jp/article/2014/03/02/17663.html

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以前から描いてみたかった「妖怪もの」というテーマを掘り下げてみたいという狙いでした。和のテイストの映像もあくまで物語から必然的に導かれたもので、特に和紙を用いたテクスチャは、モノに取り憑く「九十九神」を描くからには、物質それ自体の立体感や質感が重要になってくるだろうと最も試行錯誤を重ねた部分の一つです。

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さんざん使われたあげくに捨てられた傘に怨霊が宿ります。その怨霊はヒトをたぶらかそうとしますが、ヒトが丹念に修繕すると、その怨霊は供養され、鎮められます。その背後に、伝統的な日本人の生活価値観としての「もったいない」精神とどんなものにも生命が宿るとみなすアニミズムの精神を読み取ることができます。それこそ和風のテイストといえるものですが、『九十九』にはそれが随所に見受けられます。

たとえば、下の画像は傘の怨霊です。なんともいえない可笑しさがあります。このテイストがおそらく和風なのでしょう。怨霊さえも忌むべき存在ではなく、共存しうるものなのです。そのような世界観は「もったいない」といった使い込まれたモノを捨てず、繕って使い続ける精神に通じます。

日経新聞(2014年2月25日付)の記事では、森田監督が柳田国男の『山の人生』を愛読し、民俗学に興味を持っていることが紹介されています。民話の中には当該地域の生活倫理、生活価値観が組み込まれています。その底流には日本精神が潜んでいます。ですから、『九十九』で描かれた世界はまさに私たちが近代化の代償として忘れかけようとしている日本精神なのだといえるでしょう。(2014/4/6 香取淳子)

 

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