豊かな知識と深い洞察力で読み解く日中メディア文化

日本アニメ

「アナと雪の女王」を支えた日本人アーティストたち

■大ヒットした「アナと雪の女王」

2013年11月27日に米で公開された「アナと雪の女王」は大評判を呼び、今年の米アカデミー賞の長編アニメーション部門と主題歌部門をダブル受賞しました。今年3月14日、日本でも公開され、連日、動員数を増やしていました。私も3月29日、この映画を鑑賞しました。エンターテイメント作品として非常に優れていると思いました。とくに印象に残ったのが、氷や雪、霜などの白一色の世界の表現です。

視聴後の感想はこちら。http://jc-media.org/?m=20140329

大人の鑑賞に耐えるアニメだと思った理由の一つは、識別しにくい白の世界を圧倒的な迫力で描き出した技術力でした。リアルな世界では決して見ることのできない凍てついた世界。これほどまでに美しいとは思いませんでした。感動させられたのは、この卓越した映像表現力でした。さすがディズニーだと思ったものです。

■日本人アーティストたちの仕事

沖縄タイムズ(2014/3/13)によると、久米島町出身の糸数弘樹氏がディズニー映画「アナと雪の女王」で、デザイナーの描いたスケッチを立体に起こす作業を担当していました。いわゆる3Dモデラーです。私が感動した雪や氷柱、壊れた帆船、背景の山や海岸などを担当したそうです。

糸数氏は「コンピューターソフトでつららを作ることはできるんですが、自動的に作ってしまうと、どうしても機械的な見た目になってしまうんです。アーティストのスケッチのようにはうまくできない。なので、モデラーが結局、全部手直しをして、アーティストのデザイン通りにつららを1本ずつ直していくんです。かなり地道な作業です」と語っています。(スポニチ アネックス、2014/5/4)

モデラーの仕事についてはこちら。https://www.facebook.com/permalink.php?id=433416190050585&story_fbid=489635971085301

糸数氏ばかりではありません。アニメーターとして制作に関わったのが、ミユキ・カンノ氏です。彼女が担当したのは、ヒロイン、アナです。冒頭でアナが「いつか王国を出て、世界を変えたい」と歌うシーンを手掛けました。アナがブランコに乗るシーンは自分でもブランコに乗って夫に撮影してもらい、その映像を参考にしながらリアルな動きを作り出したといいます。

さらに、マット鈴木氏は、アニマティック/レイアウトを担当しています。鈴木氏は、「もともと出身が雪国で、特に今回は雪や氷が主役クラスで描かれるので、このエフェクトのアニメーションは非常にエキサイトしています。カメラワークは責任重大。光が回らなかったりしたら、責任重大ですから。いかに美しく見せるかということを大切にしていますので、そこをぜひとも注目してもらいたいなと思います」と語っています。(スポニチ アネックス、2014/5/6)

そして、土井香織氏。彼女は3Dライティングを担当しました。苦労したのは水や氷だといいます。透明なものほどライティングは難しいといいます。土井氏は「ライティング担当は3人いるんですが、3人が全く同じライティングをしないといけない。(監督に)1コマ1コマずつチェックされて、またやり直してといった具合でした」と語っています。

以上、詳細はこちら。http://matome.naver.jp/odai/2139635800728998401

■ディズニーを支えた日本人のものづくり精神

日本人アーティストだからこそ、このように緻密な制作ができたのでしょう。徹底的に完成度を高めるという精神です。それがディズニーの作品の魅力を確かなものにしたのです。デイズニーは、”共感できるストーリー”、”魅力的なキャラクター”、”現実味のある世界”、これら3つの要素を重視して映画製作をしているといわれています。その一つである”現実味のある世界”、これを実現させたのが日本人アーティストたちだったといえるでしょう。その結果、この作品はいまなお世界中で観客を動員し続けています。歴史に残る作品になることは確かでしょう。(2014/5/8 香取淳子)

 

『宇宙戦艦ヤマト』と『宇宙戦艦ヤマト2199』

『宇宙戦艦ヤマト2199』の原画展が、4月22日から5月7日まで池袋西武デパートで開催されています。下の写真は会場付近の柱に張り付けられていたポスターです。

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■画期的な作品だった『宇宙戦艦ヤマト』

1974年、テレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』が放送されて以来、一気にアニメファンの年齢が上がりました。子ども向けのアニメから少年や青年が見て楽しめる動画になっていたからです。

その第1作をベースにリメイクされたのが『宇宙戦艦ヤマト2199』です。こちらは2013年4月7日から9月29日まで、全26話がMBS、TBS系列で放送されました。そのキャラクターデザイン、メカニカルデザインの原画展が今回、池袋西武で開催されているのです。

■いま見る『宇宙戦艦ヤマト』

『宇宙戦艦ヤマト』はそれまでの子ども向けアニメの概念を変えるような画期的な作品でした。いまなおファンが多いのはそのせいでしょう。とくに、メカニックなことに関心を寄せる少年、青年の心を捉えて離さなかったのです。

当時の作品を見ると、懐かしくなってしまうのですが、残念なことに、画質が良くないのでなかなか以前のようには引き込まれて見ることができません。高画質、高音声の視聴覚コンテンツを見慣れてしまったからでしょう、内容よりもまず、そのことに目がいってしまうのです。

たまたまYoutubeで当時の映像を見つけました。

第1作はこちら。 https://www.youtube.com/watch?v=_-EXtvMwJoA

ストーリーはいま見ても、しっかりしていますし、キャラクターデザインもとても惹きつけられるのですが、画質、音声はやはり見劣りしてしまいます。改めてアニメがテクニカルな側面に支えられたコンテンツだということがわかります。

ただ、テクニカルな側面を向上させたとしても、ストーリーやキャラクターデザインに魅力がなければ、ファンを引き付けることはできません。

■『宇宙戦艦ヤマト2199』

それでは、『宇宙戦艦ヤマト』をベースに制作された『宇宙戦艦ヤマト2199』はどうなのでしょうか。動画を探してみました。

第1部はこちら。 https://www.youtube.com/watch?v=2SdtTw-efCE

テレビの視聴率をみると、第1話が関東5.7%、関西5.9%、それ以降は2~4%だったといいます。これらの数字はそれほど高くないように見えますが、アニメでは1位~2位を占めていたようです。つまり、リメイク版も成功したということなのでしょう。だからこそ、劇場版が2014年秋に公開されることになったのでしょう。

■ファン層の成長

『宇宙戦艦ヤマト』はそれまで子ども向けというイメージだったアニメの認識を大きく変えました。当時、青少年にまでファン層を広げることになったのです。今回のリメイク版もその流れを引き継いでいます。青少年が抱くメカニックなものに対する関心に呼応しようとしたのでしょう、ポスターの絵柄も戦艦にスポットを当てた構成になっています。

原画展の会場で列を作っていたのは、中高年男性たちでした。アニメが時代のシンボルとして存在し、時代とともに息づいていることがわかります。娯楽の少なかった『宇宙戦艦ヤマト』から多様な娯楽があふれている今秋、公開される『宇宙戦艦ヤマト2199』がどの層にどのように受け入れられるのか、等々に注目したいと思います。(2014年4月30日 香取淳子)

 

Google歴史アーカイブ:手塚治虫の資料、ネットで公開

Google歴史アーカイブ:手塚治虫の資料、ネットで公開

■手塚治虫の資料、ネット公開

4月7日、手塚治虫の資料のコレクションが、「Google 歴史アーカイブ」(オンライン展示サービス)で公開されました。アトムの誕生日にあたる4月7日、「手塚治虫 テレビアニメ・黎明編」「手塚治虫 漫画の神様・復活編」「手塚治虫記念館」の3つの展示のほか、写真資料やイラスト、動画など、約170点の資料が公開されています。テレビアニメ元祖の業績が共有知として公開されたのです。新たな時代を迎えたといわざるをえません。

詳細はこちら。  http://tezukaosamu.net/jp/news/n_1402.html

 

貴重な資料を居ながらにしてみることができるのは研究者として大変、ありがたく、関係者の英断に喝采したい気持ちです。また、このようにしてネット上に資料を公開することによって、手塚治虫の業績がさらに広く、世界中で認識されていくでしょう。日本アニメの誕生を知ってもらういい機会になると思います。

たとえば、「手塚治虫 テレビアニメ・黎明編」で草創期、テレビアニメの制作に取組んだ手塚治虫の奮闘ぶりが写真や資料を通して伝えられます。若いころの手塚治虫、作業に励む手塚プロのスタジオ内部、『ある街角の物語』(1961年)の貴重な一カット、なども見ることができます。

1963年1月1日に放送開始された『鉄腕アトム』は、その第1話「アトムの誕生」の動画が公開されています。

http://www.google.com/culturalinstitute/exhibit/%E6%89%8B%E5%A1%9A%E6%B2%BB%E8%99%AB%E3%80%80%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1%E3%83%BB%E9%BB%8E%E6%98%8E%E7%B7%A8/ARJM85Ru?position=19%2C0

その後の白黒アニメ『W3』そして、カラーアニメの『リボンの騎士』といった具合にアニメーション技術の発展過程も見ることができます。

『鉄腕アトム』で未来の生活を描いた手塚治虫は、『ジャングル大帝』で大自然の中で自由にクラス動物たちの世界も描き出します。さまざまな領域にチャレンジし続けた手塚治虫の姿を見ることができます。

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■Google歴史アーカイブ

「Google 歴史アーカイブ」で公開されたので、いつでも自由に、パソコンの上で、上記の写真のように手塚治虫の制作に関する資料や写真を見たり、動画を視聴することができるのです。

著作権に縛られていれば、閲覧機会が少なくなり、幅広く知ってもらう機会を逃してしまいます。手塚治虫の場合、1989年に亡くなっていますから、氏の著作物の著作権保護期間は、現行法では2039年12月31日までということになります。とはいえ、このような形で公開されたことによって、現地に出向くことなく手塚治虫の世界に浸れることができますし、Googleならではのストリートビューで館内をめぐることができます。現在の技術を生かした展示といえるでしょう。(2014/4/8 香取淳子)

 

 

 

 

アニメの動員力:6月実施予定の池袋シネマチ祭

アニメの動員力:6月実施予定の池袋シネマチ祭

■アニメファンの街:池袋

日経新聞(4月4日付)が、池袋の映画館等が6月にアニメを中心にした映画祭を開催すると報じました。アニメグッズなどのサブカルチャー関連店舗が集積している池袋は、近年、「アニメファンの街」としての存在感が高まっているといいます。そこで、6月6‐8日、5つの映画館とアニメイトが中心になって、池袋シネマチ祭を開催するというのです。

アニメイトは、アニメ、コミック、ゲームなどの関連商品の販売を手掛けるチェーン店で、島根県を除く46都道府県に店舗を置く、国内最大手の企業だそうです。その本店が池袋にあり、池袋本店にはアニメ映画を上映できるホールもあります。

シネマチ祭ではアニメ映画を上映するだけではなく、声優や監督のトークイベント、ファンの交流、アニメキャラクターに扮して街の清掃を行う「コスプレ大清掃」などのイベントも予定されています。アニメといえば秋葉原と思っていただけに意外です。

■エリア全体の魅力

日経新聞によれば、池袋の映画館がこのような企画を打ち出した背景には都内で映画館の閉館が相次いでいることへの危機感があるようです。たしかに、大画面、デジタルドルビー音声のシネコンにはスクリーンがいくつもあり、そこで映画を見慣れてくると、これまでの映画館が物足りなくなります。エリア全体の魅力を高めなければ、映画館が単独で生き残るのは難しくなってきたというのは事実でしょう。

その映画も近年は、アニメが興行収入トップであることが多いといいます。たとえば、『アナと雪の女王』(ディズニー)は3週連続で1位を獲得しています。土日2日間の成績は動員69万1321人、興行収入は8億8121万2200円をあげたそうです。累計をみると、公開17日間で動員数が430万人、興行収入が52億円を突破したといいます。子どもの人口が減っているというのに、アニメ映画が驚異的な数字を積み上げているのです。このような現実を知ると、アニメに注目した企画になるのも当然といえましょう。ちなみにこの企画には豊島区が支援しているといいます。

豊島区は2004年に「文化創造都市宣言」をして以来、文化事業の展開によって着実に区のイメージアップ、動員効果を上げています。その結果、財政状況も改善させることができたようです。(http://toyokeizai.net/articles/-/28135

■アニメの動員力

6月に池袋で実施されようとしているアニメ祭。この企画からはいくつかのことが示唆されています。一つには、郊外型のシネコンに押され、都心部の映画館が不振だということ、都市間競争で優位に立つには文化政策が不可避であること、そして、もっとも示唆深いのが、アニメ関連事業でなければ多数の人々を動員できないこと、等々です。

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東京ビッグサイトで撮影した写真です。多数のアニメファンが集まりました。

ここ数年来、地方でアニメによる地域起こしが盛んなことは知っていましたが、東京でもそのような現象が起こっているとは驚きです。子ども人口が減っているというのに、この現象はいったい何を意味するのでしょうか。改めて考えてみる必要がありそうです。(2014/4/7 香取淳子)

 

 

 

 

 

アカデミー賞候補になった和風テイストの短編アニメ

アカデミー賞候補になった和風テイストの短編アニメ

■短編アニメ『九十九』

第86回アカデミー賞では、宮崎駿監督の『風立ちぬ』が長編アニメ賞部門、森田修平監督の『九十九』が短編アニメ賞部門にノミネートされました。残念ながら、両作品とも受賞は逃しましたが、日本アニメが2本もノミネートされたのは画期的なことです。とくに、世界的に認知度が高く、ファンも多い宮崎駿監督と並び、若干35歳の森田修平監督の作品が大きな評価を得たことは注目に値します。

この作品は、2013年7月に公開されたオムニバス映画『SHORT PEACE』の一編として制作されました。とてもユニークな内容です。本来、モノには生命がないはずですが、使い込まれていくと、そこにいつしか精霊が宿り、妖怪となって人間をたぶらかす・・・、といったモティーフの下で物語が展開されます。

15秒ほどのCM映像を見ていただきましょう。http://www.youtube.com/watch?v=PJfhKpayMog

森田監督はインタビューに答えて、次のように言っています(『intoxicate』vol.104)。

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アニメは情報を削除していく文化で、浮世絵にも通じるかもしれないですが、そういうのが日本は得意だと思います。逆にアメリカの映画は、情報を足すというか過剰にしていく。宮崎さんのアニメなどは、本当にちょっとしたことでも、奥が深いんですよね。さらに世界観も作れて、次は面白いストーリーとか・・・、いくらでも広がりが持てる」

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森田監督はこうもいっています(http://animeanime.jp/article/2014/03/02/17663.html

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以前から描いてみたかった「妖怪もの」というテーマを掘り下げてみたいという狙いでした。和のテイストの映像もあくまで物語から必然的に導かれたもので、特に和紙を用いたテクスチャは、モノに取り憑く「九十九神」を描くからには、物質それ自体の立体感や質感が重要になってくるだろうと最も試行錯誤を重ねた部分の一つです。

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さんざん使われたあげくに捨てられた傘に怨霊が宿ります。その怨霊はヒトをたぶらかそうとしますが、ヒトが丹念に修繕すると、その怨霊は供養され、鎮められます。その背後に、伝統的な日本人の生活価値観としての「もったいない」精神とどんなものにも生命が宿るとみなすアニミズムの精神を読み取ることができます。それこそ和風のテイストといえるものですが、『九十九』にはそれが随所に見受けられます。

たとえば、下の画像は傘の怨霊です。なんともいえない可笑しさがあります。このテイストがおそらく和風なのでしょう。怨霊さえも忌むべき存在ではなく、共存しうるものなのです。そのような世界観は「もったいない」といった使い込まれたモノを捨てず、繕って使い続ける精神に通じます。

日経新聞(2014年2月25日付)の記事では、森田監督が柳田国男の『山の人生』を愛読し、民俗学に興味を持っていることが紹介されています。民話の中には当該地域の生活倫理、生活価値観が組み込まれています。その底流には日本精神が潜んでいます。ですから、『九十九』で描かれた世界はまさに私たちが近代化の代償として忘れかけようとしている日本精神なのだといえるでしょう。(2014/4/6 香取淳子)

 

次世代に向けて:アニメ産業と教育の連携事業

次世代に向けて:アニメ産業と教育の連携事業

■練馬区のアニメに対する思い

4月2日、練馬区のアニメ産業支援について、練馬区商工観光課長の吉田哲さんにお話をうかがいました。

練馬区は全国でも珍しくアニメ産業を積極的に支援している自治体です。3月には試行的な取り組みとして動画マンを対象にキャリアアップ講座を実施しましたし、例年、豊島園で「練馬アニメカーニバル」、大泉学園で「アニメプロジェクトin大泉」などのイベントを開催しています。アニメが区内の産業活性化や区のアイデンティティ確立、ブランド化に寄与することを目指し、練馬区はさまざまな興味深い事業に取り組んでいるのです。その象徴が練馬区公式アニメキャラクターの「ねり丸」で、「アニメ・イチバンのまち 練馬区」をアピールするために作成されました。

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練馬区が展開しているアニメ関連事業の中でもっとも興味深いのが、「アニメ産業と教育の連携事業」です。これは平成22年度から実施されている事業で、練馬区内の小中学校にプロのアニメーターが出向き、子どもたちにアニメ制作を体験させるというプログラムです。主に総合学習あるいはクラブ活動の時間帯に行われています。25年度は19の学校で延べ23事業が行われました。

■アニメ産業と教育の連携事業

実践してみると、当初の目的をはるかに超える効果が得られたといいます。子どもたちはこの事業によって、アニメ産業を理解し、キャリア教育を体験できただけではなく、アニメ制作の過程では仲間との協働作業を通して、協調や忍耐、責任といったことも学ぶことができたようです。一方、講師役を務めたアニメ事業者からは、子どもたちと直に接触することで、新しいインスピレーションを受け、創作意欲をかきたてられたと報告されています。

教育委員会とアニメ事業者とをマッチングさせ、一つの事業として結実させた自治体の成果といえましょう。先進的なこの事業は平成25年1月31日、第2回キャリア教育推進連携表彰で奨励賞を受賞しています。

詳細はこちら。http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/01/1330493.htm

また、平成25年2月19日、第3回キャリア教育アワードで大賞を受賞しています。審査会の主な評価をみると、以下の3点に集約されます。

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・地場産業を活かし「プロのすごさ」を子どもが間近に実感する機会を提供している。
・教員向けのガイドや研修会が充実しており、プログラムにも柔軟性があるため、学校が取り入れやすいプログラムとなっている。
・地域の中で、小学校から大学、企業、NPO等関係者が連携しプログラムを構築している。

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以上、詳細はこちら。http://www.meti.go.jp/press/2012/02/20130220004/20130220004-1.pdf

一連の流れを見ると、練馬区がアニメ産業と教育の連携事業を構想し、実践することによって、各方面に大きな効果をあげつつあることがわかります。ただ、教育は地道な作業ですから、着実に継続していくことがなによりも大切です。そうすることによって初めて、さらなる効果につながっていくのだと思います。今年度の事業も間もなくスタートします。子どもたちとアニメーターとの新たな出会いが始まります。

■取組のさらなる充実を

クリエイティブ産業は次世代産業の一つとされています。中小企業が多いとはいえ、多くのアニメ関連企業を抱えている練馬区はその点で、大きな潜在資産をもっているといえます。その潜在資産を着実に顕在化させていくための基盤の一つとして、人材育成に関する事業、キャリア教育に関連する事業が重要です。「アニメ産業と教育の連携事業」というユニークな取り組みのさらなる充実を期待しています。(2014/4/2 香取淳子)

 

短編アニメーション映画の可能性

短編アニメーション映画の可能性

■山村浩二作品集上映会

3月22日(21:30~22:30)、山村浩二作品集上映会に参加しました。21:30分から始まった上映会では、冒頭で、山村監督による簡単な作品紹介がありました。印象に残っているのは、短編アニメーションをより多くの人に知ってもらうために、ショップとギャラリーを昨年からオープンさせているということでした。確かに、私も山村浩二作品には以前から興味があったのですが、これまで視聴する機会がありませんでした。短編アニメーションは商業ベースには乗りにくく、上映機会が少ないからだったのでしょう。

上映されたのは7本の短編アニメーションで、その概要は以下の通りです。

『カフカ 田舎医者』  短編アニメーション、35mm、21分、2007
『こどもの形而上学』  短編アニメーション、35mm、5分8秒、2007
『年をとった鰐』 短編アニメーション、35mm、13分、2006
『Fig』 短編アニメーション、4分20秒、2003
『頭山』 短編アニメーション、35mm、10分、2002
『five fire fish』 短編アニメーション、1分29秒、2013
『マイブリッジの糸』 短編アニメーション、35mm、12分39秒、2011

7本の中で長いもので21分、短いのはわずか1分29秒です。これでは長編とは自ずと異なった作りにならざるをえません。長編アニメと違って、ストーリーや登場人物に同化させるだけの時間がないのです。ですから、ストーリーや登場人物に同化させるのではなく、むしろ距離を置いて批判的に観察させるように仕向けます。そうすることによって視聴者の心に深い問いかけを残すことができます。いってみれば、視聴者の心にさざ波を立てるのです。

そもそも画風がいっぷう変わっています。線画風ですが、日常の風景でさえ異次元の世界に見えてしまう深みがあって引き込まれます。現実世界の複層性は言葉では整理することができない複雑さがありますが、その画風によって、見事に表現されていました。とくに優れていると思ったのが、『カフカの田舎医者』であり、『頭山』でした。いずれも長編では描けない世界です。

上の写真は作品集『Ein Landarzt』の表紙です。
アニメ「カフカの田舎医者」の原作である「田舎医者」は、1918年に年刊誌『新文学』に掲載され、1920年に短編集『田舎医者』に収録されました。
■飲食、談笑、映画
さて、ヒトは誰か他のヒトと心を通い合わせたくて、共に飲み、食事をし、会話をします。それでも、なかなか心が満たされることはありません。それだけではせいぜい他のヒトと快いひとときを共に過ごせたにすぎないからです。そこで、ヒトは感動を求めて映画館に足を運びます。映画であれば、ヒトは少なくとも、ジャンル別に分類された「感動」ぐらいは即席に受け取ることができるからです。このような現代人の欲求に合わせ、飲食と情報コンテンツがセット化されて「賑わい」は作り出されます。そして、山村作品集が上映された会場があるCOREDO室町界隈はそのような一角でした。

やがて、飲食、音楽、「感動的」な大衆向け映画だけでは心が満たされなくなるヒトが出てくるはずです。そうなったとき、山村浩二作品にみられるような短編アニメーションのもつ異化作用の力が必要とされるようになるでしょう。「感動」や「同化」に頼らずに作品世界に引き込む力を持っているからです。「感動」はヒトや人間社会の持つネガティブな要素を排除したところで生み出されがちです。そこに大抵の場合、現実の歪曲があり、強引な解釈が介在します。

こうしてみると、ヒトが現実社会をありのままに見つめようとするとき、衝撃力をもつ短編アニメーションが求められるはずです。短編アニメーションの可能性の一つはそのあたりにあるのではないでしょうか。(2014/03/23  香取淳子)

練馬区がアニメーターズ・キャリアアップ講座を開始。

練馬区がアニメーターズ・キャリアアップ講座を開始。

■アニメーターズ・キャリアアップ講座の開始

3月9日、練馬区が参加費無料のアニメーターズ・キャリアアップ講座を開始しました。動画制作の技能を向上させるために、練馬区に在住あるいは在勤の新人動画マンを対象に、3月9日、16日、21日の計3回実施されるというものです。

毎回、講義と実技指導を組み合わせたカリキュラムになっており、フリーアニメーターの名和誉弘氏(9日、担当:動画検査)、プロダクションI.G.取締役の後藤隆幸氏(16日、担当:作画監督・キャラクターデザイン)、アニメ私塾代表の室井康雄氏(21日、担当:原画・絵コンテ・演出)などが講師を務めます。平成25年度の練馬区アニメ人材育成支援事業として企画されました。

詳細は  こちら。http://anime-cu.jp/

■離職率の高いアニメーター

安倍政権の成長戦略の一つとして位置づけられているアニメ産業ですが、その実態はきわめて脆いのです。中小零細企業が多く、経営基盤が脆弱なのです。はたして次代への備えはどうなのでしょうか。実際、アニメーターを志してこの業界に入った若者が次々と辞めているのです。

以前、この問題について調べて書いた文章があります。その一端を紹介しましよう。

「新人は動画担当を三、四年経験すると原画担当になっていくのだが、収入が少ないのでそれ以前に退職してしまう人が多いといわれる。その結果、動画のキャリアを積んだ人材が足りず、原画マンが慢性的に不足している。国内で仕事をこなせないから動画の多くは東南アジアなどに発注され、原画マンが不足するという悪循環から脱却できないのである」

(香取淳子「日本アニメを考える」『放送レポート』2013年9月号、p.35)

動画制作工程には以前からこのような大きな問題があり、いまだに解決されていません。ですから、今回、実施された練馬区のアニメ人材育成支援事業はまさにこの課題に焦点を当てて行われたものといえます。動画マンはアニメーターとしての出発点であり、キャリアパスの初期段階だからこそ、新人動画マンに対する教育支援が必要なのです。

■人材育成の必要性

練馬区には約90社のアニメ関連会社があります。いってみれば、アニメ産業は練馬区にとって地場産業なのですが、その多くが中小零細企業ですから、次代に備えて自前で制作環境の改善や人材育成を行うことは難しいのです。将来に対する備えがなければ、競争力を持ち続けることはできません。

グローバル化が進み、メディア環境が激変する一方で、日本では少子高齢化が進んでいます。それに伴って、さまざまな領域で国際競争力を失いつつあります。アニメ産業もその一つですが、今回の練馬区の支援事業がこれまで営々として築き上げてきた日本のアニメ産業を自治体が支えていくための一つのモデルとして、他にも広がっていけばと期待しています。(2014/03/20  香取淳子)

 

 

幼児がテレビを見なくなった?

幼児がテレビを見なくなった?

■幼児の視聴時間はなぜ減ったのか

3月12日、NHK放送文化研究所主催の「春のシンポジウム」に参加しました。「幼児のテレビ視聴時間は、なぜ減ったのか」という安楽裕里子氏の報告にちょっと驚きました。

いま、2歳から6歳の幼児のテレビ視聴時間は1日平均、1時間49分なのだそうです。1980年代の前半に子どもとテレビの研究をしていた私にとっては意外な数字でした。1998年に2時間43分であった一日平均視聴時間はその後、長期的な減少傾向がみられ、この15年間で約1時間ほども下回ったというのです。

「 幼児の視聴時間はなぜ減ったのか」詳細はこちら。http://www.nhk.or.jp/bunken/symposium/2014/program.html#a

まだ文字を十分に習得していない年齢の子どもたちにとって、テレビは唯一の情報手段です。ところが、そのテレビを見る時間が減っているというのです。たしかに、普段、テレビを見ていても、子ども向け番組が少なくなったような気がします。そうはいっても、他に手段がなければ、子どもたちはテレビを見るはずです。ところが、そうではない。というのは、どういうことなのでしょうか。

安楽氏は資料を踏まえ、0歳から6歳までの子どもの生活時間を2013年と2003年を比較すると、2013年は拘束時間(幼稚園、保育園、外出)が57分増え、自由行動時間は1時間6分減少していることが明らかになったといいます。また、テレビ視聴時間は平日、日曜ともこの10年間で減少が顕著であり、録画番組、ビデオ、ゲームなどに使う時間は増えているといいます。

■多様な視聴覚メディアへの接触

NHK放送文化研究所の調査結果からは、子どもの余暇時間が減っていること、テレビだけではなく、ビデオ、ゲームなど多様な視聴覚メディアに接触していることが視聴時間減少の主因になっていることがわかります。安楽氏はさらに、最近の子どもがスマホやタブレットなどの機器にも接触していることをあげています。

興味深いことに、文字を十分に習得していない年齢の子どもたちの情報手段として、スマホやタブレットが登場しているのです。とくにタブレットはテレビとは違って、自分で操作を楽しむ要素もあります。画面をタップしたり、ピンチすることで、必要な情報を表示させたり、画面移動をしたり、拡大・縮小したりできます。タブレットにはカスタマイズできる面白さがあるのです。

■子ども番組の減少、新しいメディアの登場

私が「子どもとテレビ」について調査をしていた1980年代前半に比べ、新しい情報機器が子どもたちの生活環境の中に入り込んでいるのです。その一方で、子ども向け番組は圧倒的に減少しています。これは少子化の影響といえますが、生活空間の中でのこのような変化は子どもが子ども時代を生きることが難しくなったことを意味します。

かつて「7歳までは神の内」といわれた年齢の子どもたちが大人と同じような情報機器を手にし、大人が見ている番組を見ざるを得ない状況になっているのです。このような状況はおそらく、今後、ヒトの感性や行動、価値観に影響を与えていくのでしょう。どういう方向に向かっていくのか、生活時間、メディア接触時間といった項目を丁寧に追いながら、見つめていく必要があると思いました。(2014/03/19  香取淳子)